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東京地方裁判所 昭和25年(ワ)2705号・昭26年(ワ)49号 判決

反訴被告は、反訴原告飯塚、同洪、同野口、同木川、同畑中、同松木に対し、それぞれ目録<省略>(一)ないし(六)の各宅地につき、所有権移転登記手続をせよ。

訴訟費用は本訴並に反訴を通じ全部本訴原告の負担とする。

二、事  実

(双方の求める裁判)

原告(反訴被告。以下単に原告という。)訴訟代理人は、本訴につき、「被告(反訴原告。以下単に被告という。)飯塚、同洪、同野口、同木川、同畑中、同松木は、原告に対しそれぞれ目録(イ)ないし(ヘ)の家屋を収去し、それぞれ目録(一)ないし(六)の土地の明渡をせよ。又それぞれ右の土地の坪数に応じて昭和二十四年一月一日から昭和二十五年七月三十一日までは月坪当り二円七十六銭、昭和二十五年八月一日から明渡済みまでは月坪当り八円二十五銭の割合の金員の支払をせよ。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決並に家屋収去土地明渡の点についての仮執行の宣言を求め、反訴につき、「被告等の請求を棄却する。」との判決を求めた。

被告等訴訟代理人は、本訴につき、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、反訴につき、「主文第二項同旨及び訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

(本訴に関する双方の主張)

原告訴訟代理人は請求の原因として次のように述べた。

(一)  本件宅地はすべて原告の所有であるが、被告等は昭和二十三年五、六月からこれを不法に占有し、

被告飯塚は目録(一)の土地に(イ)の建物を

同洪は目録(二)の土地に(ロ)の建物を

同野口は目録(三)の土地に(ハ)の建物を

同木川は目録(四)の土地に(ニ)の建物を

同畑中は目録(五)の土地に(ホ)の建物を

同松木は目録(六)の土地に(ヘ)の建物を

それぞれ所有して原告の土地所有権を侵害している。故に原告は所有権にもとずき各被告に対し、その占有地上の建物の除去、占有地の明渡、並にその占有地の坪数に応じ、昭和二十四年一月一日から昭和二十五年七月三十一日までは月坪当り金二円七十六銭同年八月一日から明渡済みまでは月坪当り金八円二十五銭の割合の公定地代額相当の損害金の支払を求める。

被告等訴訟代理人はこれに答えて次のように述べた。

(1)  原告主張(一)の中、本件宅地がもと原告の所有であつたこと、被告等がそれぞれ原告主張の宅地を占有してその上に建物を所有していることは認めるが、本件宅地が現に原告の所有に属することは否認する。

(2)  原告は昭和二十三年三月四日本件宅地合計二百十四坪四合一勺を坪当り金四百五十円合計金九万六千四百八十四円五十銭で訴外加藤貫一に売渡し、同年五月三十一日までに代金全部を受領した。

(3)  加藤はこれを目録のように六筆に分筆した上、同年三月上旬日光組こと訴外伴道義に売買契約類似の有償契約により譲渡した。

(4)  日光組こと伴は直ちに右六筆の地上にそれぞれ原告主張の六棟の建築を始め、完成せぬ中に

昭和二十二年四月中、被告飯塚に、目録(一)及び(イ)を、代金十五万六千八百五十八円で

昭和二十三年四月二十五日、被告洪に、目録(二)及び(ロ)を代金十五万八千七百八十八円五十銭で

昭和二十三年三月十二日被告野口に、目録(三)及び(ハ)を代金十二万円で

昭和二十三年四月中、訴外宮本とみ子に、目録(四)及び(ニ)を、代金十二万円で

昭和二十三年四月二十三日、被告畑中に、目録(五)及び(ホ)を代金十七万九千四百七十四円五十銭で

昭和二十三年四月十七日被告松木に、目録(六)及び(ヘ)を代金十三万円で

それぞれ譲渡し、訴外宮本とみ子は更に

昭和二十四年七月十日、目録(四)及び(ニ)を被告木川に代金二十万円で譲渡した。故に本件宅地はいずれも被告等の所有に属する。従つて被告等の占有は適法であり、原告の請求は失当である。

原告訴訟代理人はこれに対して次のように述べた。

(二) 被告等主張(2) の事実は認める。然しこの売買契約はすでに解除されたものである。

(イ)  原告は契約に際し、本件宅地の奥にある自己所有の土地が袋地とならぬように、加藤に

(a) 右土地から公道に通ずる幅員九尺の土地は譲渡の対象とせず、原告の所有として、分筆すること。(以下分筆の約という。)

を約束させたが、

(ロ)  実際に加藤のなした分筆はこれに反したので、改めて

(b) 分筆を更正するか或は必要部分に通行地役権を設定すること。(以下私道開設の約という。)

を約させた。

(ハ)  又原告は契約代金の支払期日を昭和二十三年五月十五日まで延期することを承諾する代償として、加藤に

(c) 本件宅地上に既設されている原告名義の共同及び専用水道栓並に瓦斯設備を相当価格で買取ること。(以下設備買収の約という。)

(d) 売買以後も、本件宅地の登記が原告名義であるため原告に課せられる地租、並に不動産所得税及び登記移転により原告に課せられる譲渡所得税の相当額を原告に支払うこと。(以下租税金負担の約という。)

を約させた。

(ニ)  代金受領が終つた時に原告は加藤に対して、

(e) 加藤又はその指定する者を登記権利者として移転登記すること。(以下登記協力の約という。)

を約したが、これは前記の私道開設、設備買取、租税金負担の各約定を加藤が先ず履行することを前提とするものであつた。

(ホ)  そこで原告は、昭和二十四年六月一日、加藤に対し、

1.私道開設義務の履行

2.設備買取義務の履行として金一万円の支払

3.租税金負担義務の履行として

昭和二十四年地租予定額金三千八百円の支払

昭和二十三年、二十四年度不動産所得税額金二千円の支払

昭和二十三年四月五日以降不動産譲渡所得税額増加額金二万円の支払

を到達の日共十日間の期間を定めて催告し、期間内に履行しなければ契約を解除する旨の意思表示をなし、これは翌日到達したが、期間内に履行せられなかつた。従つて六月十二日契約は解除され、本件土地所有権は原告に復帰したものであつて、右契約の存続を前提とする被告等の所有権の主張は失当である。

(三)  被告等主張(3) の中、分筆の点は認めるが、譲渡の点は不知である。かりに日光組こと伴が買受けたとしてもこの譲渡は原告と加藤との間に成立していた前記売買契約及びこれに附随する双務契約における買主加藤の地位を日光組こと伴が承認したものと見るべきであるが、右の双務契約につき被告等主張の日時においては代金債務初め加藤の義務は履行せられていないから原告の承諾がなければ譲渡は無効である。従つてこれを前提とする被告主張は失当である。

(四)  被告等主張(4) の事実は不知である。かりに被告等の譲渡が行われたとしても、この日時においては原告の承諾を要し、これなき以上譲渡は無効であることは前段と同様であり、更にかりに被告等が本件各宅地について所有権を取得したとするも、その旨の登記がないから、第三者たる原告に対抗することはできない。故に被告の主張は失当である。

被告等訴訟代理人はこれに対して更に次のように述べた。

(5)  原告主張(二)の事実中、

(い)  本件宅地の奥に原告所有の袋地があることは認めるが、(a)の分筆の約定は否認する。もし原告主張のとおりとすれば売買目的物は本件各宅地合計二百十四坪四合一勺よりも少くならなければならない。然し坪当り価格と総代金とから算出すれば、売買目的物が二百十四坪四合一勺であつたことは明らかであつて、この中から原告の所有地を分筆する余地はない。総代金を異議なく受領した原告は右の事情を知つていたわけである。

(ろ)  加藤が本件宅地の分筆に際し、原告主張のような部分を原告所有として分筆しなかつたことは認めるが、改めて(b)私道開設の約定がなされたとの点は否認する。

(は)  代金支払を猶予して貰つたことは認めるが、(c)設備買取(d)租税金負担の各約定は否認する。

(に)  原告が(e)登記協力を約したことは認めるが、これは契約の当初からであつて、代金受領の時ではない。又これに対して加藤が私道開設、設備買取、租税金負担の各約定を履行することが前提となつているとの点は否認する。

(ほ)  昭和二十四年六月二日催告書が加藤に到達したこと、その趣旨は設備買取義務、租税金負担義務の履行としてそれぞれ原告主張のような金員の支払を要求するにあつたことは認めるが、私道開設義務の履行をも要求する趣旨であつたことは否認する。期間内に加藤が履行しなかつたことは認める。

(6)  右の原告の解除は無効である。

(い)  加藤は昭和二十三年度後半期分の地租相当額として金二千円を原告に支払つているが、これは土地の所有者として当然のことをなしたのであつて、別に約定に従つたものではない。昭和二十四年度以降の分についても同様の意味で土地の真の所有者が、支払をなすべきことは認めるが、既に原告に対し決定賦課せられてからは格別、それ以前に、単に予定額として金三千八百円を支払うべき義務はない。

(ろ)  不動産所得税については、原告は本件土地につき既に所有権を有せず何等所得がないのであるから、税務署と折衝してこれを納得せしめれば課税される筈はない。いわんやかかるものを加藤が負担する訳はない。

(は)  不動産譲渡所得税については、税法上所謂権利確定の原則により売買の成立した昭和二十三年三月四日現在の税率で課税せられるもので、登記時の税率によるものではない。従つて登記時の税率による課税を前提とする原告の論は失当である。

(に)  設備買取の約定がなかつたことは前記のとおりである。本件地内には破損した水道栓が、一、二本残存していたが、これらは現状のまま売買の目的とされたのである。瓦斯設備に至つては本件地内には存しなかつた。

故にこれ等について加藤に支払を求める原告の催告は一も正当な理由がない。従つて解除の効果を発生していない。

(7)  かりに右の主張理由なしとするも、原告と加藤との売買契約における買主の最大義務は代金支払であり、他は附随的の権利関係である。故に既に代金全額を支払つた以上、加藤の義務は残存するとしても軽微なものであり、その不履行によつて原告が契約をなした目的を達し得ぬわけではないから、これによつて解除することはできない。

(8)  かりに解除権が発生するにしても、かかる附随的義務について、履行を強制する手段を尽さないで軽微な義務違反を理由として解除権を行使するのは、権利の濫用である。

(9)  (原告主張(四)に対し)原告は「他人の為に登記を申請する義務ある者」であるから、被告等及びその売主たる日光組こと伴に対しその登記の欠缺を主張しえない。

原告訴訟代理人は更に次のように述べた。

(五) (被告等主張(6) に対し)

(イ)  地租予定額金三千八百円は催告当時既に発生していた加藤の負担義務である。

(ロ)  昭和二十三年度、昭和二十四年度の不動産所得税は地代相当額に対し原告に課されたもので、約旨によるも、又移転登記が遅れた間の事務管理の費用としても加藤に対して請求しうるものである。

(ハ)  譲渡所得税は所得のあつたときを標準として賦課されるものであるが、徴収者の方で所得を証明することを要し、登記があつて初めてこの証明ができる。故に登記時を標準として計算すべきである。

(ニ)  設備を現状のまま土地に含めて取引したとの点は否認する。水道設備は独立の動産又は給水権として土地売買契約の目的に附加しうるものであり、本件売買でもそうなつていた。

かようにいずれも加藤に対し正当に請求しうるものである。且つ催告の主たる目的は私道開設義務履行を求めるにあつたのであり、これは袋地となる土地の無力化を防ぐため必要でもあり、加藤としては当然の義務でもあるので、これを催告したことは何等不当ではなく、解除は有効である。

(六)  (被告等主張(7) に対し)本件土地に対する不動産所得税及び譲渡所得税の合算額は

昭和二十三年五月末現在金一万二千二百五十円

昭和二十四年六月一日現在金三万三千六百九十円

昭和二十四年十月以降金七万三千五百八十二円

と次第に増加し、これを原告が負担せねばならぬのでは原告の宅地売却の目的たる金銭的利益の獲得は全く達せられぬこととなる。故に附随的義務だから解除権がないとの被告等の主張は失当である。

(七)  (被告等主張(8) に対し)加藤が袋地のための土地を残さず更に私道開設にも協力せずに義務を回避し取得税賦課をさけるために受領を遅滞してその間の公租公課数万円を原告に負担せしめるのは契約代金を支払つたとしても信義誠実の原則に協わない。加藤の協力を一年間待つてのち解除したのだから解除権の濫用ではない。

(反訴に関する双方の主張)

被告等訴訟代理人は反訴請求原因として本訴における答弁を援用し、被告等はそれぞれ加藤に対して登記請求権を有するからこれを保全するため加藤が原告に対して有する登記請求権を代位行使して、原告が被告等に対してそれぞれ目録記載の土地につき所有権移転登記手続をなすことを請求する。と述べ、原告訴訟代理人はこれに対し、本訴における陳述を援用し、被告等の請求は失当であると述べた。

(中間の争)

洪被告を除く他の被告等は、いずれも第一回口頭弁論期日において、「木川被告を除く他の被告等は株式会社日光組から本件各土地を買受けた。」と陳述し、被告等訴訟代理人は第二回口頭弁論期日において、「加藤から土地を買受け被告等又は訴外宮本に売渡したのは株式会社日光組である。」と陳述したが、その後第二回準備手続期日において、右代理人は「株式会社日光組と述べたところは、日光組こと伴道義の誤りであつたから訂正する。先の陳述は日光組代表者伴道義を株式会社日光組代表者伴道義と誤解したのに出たものであるが、株式会社日光組は昭和二十四年四月五日設立せられたものでそれ以前においては、日光組は伴個人の商号に過ぎなかつた。」と述べた。原告訴訟代理人は、右訂正以前に、被告等の陳述を援用し、「株式会社日光組なるものは本件売買当時実在していないからこれに対する譲渡は無意味であり、加藤と伴との為にせんとする通謀虚偽表示による仮装売買たるに過ぎない。故にこの売買を有効とし、株式会社日光組の所有権取得を前提とする被告の主張は失当である。」と述べ、右の訂正に対し異議を申立てた。

(証拠及びこれに関する中間の争)

<立証省略>

なお原告訴訟代理人は第一回準備期日において乙第四号各証を除き乙号証はすべて成立を認めたが、第二回期日において前記のように認否を訂正し、被告等訴訟代理人は右訂正に異議を申立てた。

三、理  由

一、本件宅地がもと原告所有であつたこと、被告等がそれぞれ原告主張の土地を占有してその上に建物を所有していることは当事者間に争いがない。

二、よつて被告等がそれぞれ既に各宅地の所有権を取得したとの抗弁について考える。

昭和二十三年三月四日原告が本件各宅地合計二百十四坪四合一勺を坪当り金四百五十円合計金九万六千四百八十四円五十銭で訴外加藤貫一に売渡し、同年五月三十一日迄に代金全部を受領したことは当事者間に争いがない。そして被告等主張の所有権は右の売買による加藤の所有権取得を前提とし、これに由来するものであるところ、原告は右の売買契約は既に解除されたと主張する。

三、原告が加藤に対して、内容証明郵便により、到達日共十日の期間を定めて設備買取、租税金負担の各約定の履行の催告をし、期間内に履行がなければ、契約を解除する旨の意思表示をしたこと、右の意思表示が昭和二十四年六月二日加藤に到達したこと、並に期間内に履行がなかつたことは当事者間に争いがない。原告は私道開設義務の履行についても催告したごとく論ずるけれども成立に争いない甲第三号証の一によるもこの趣旨の催告をしたと認めることはできず、その他これを認めるに足る証拠はない。よつて催告の内容については右の争いない範囲において考えることとする。さて被告等は加藤には債務不履行なく、従つてこの催告は不当であるとし、解除の効果を争うので以下これについて判断しよう。

四、先ず私道開設の約について考えることとし、その前提として、契約当初において分筆の約があつたか否かについて考察するに本件土地の奥に原告所有土地が存していることは当事者間に争いがなく、原告本人の供述により認める甲第四号証(台東区役所備付の図面)並に原告本人の供述を綜合すると、右土地即ち甲第四号証中の斜線部(通路部分を除く)は、本件土地が原告の所有でなくなる場合には所謂袋地となることが認められ、原告本人の供述によれば原告は弁護士であつて、土地上の法律関係についても通常人以上の知識を有していると認められ、これらの争いない事実及び認定事実を綜合すると原告が本件土地を加藤に売却するにあたり、右の原告所有土地が袋地になることを避けるため幅員九尺の土地を右土地から公路への通路として原告の所有名義に分筆するよう加藤との間に合意したことを認めることができる。伴証人、野口証人の各証言中、右認定に反する部分は信用しない。

被告は本件宅地合計坪数は二百十四坪四合一勺であり、これが売買の目的物となつている以上、原告所有として通路を分筆すべき余地はないと主張し、売買目的物が本件宅地合計二百十四坪四合一勺であることは当事者間に争いのないところであるが、原告本人の供述により成立を認める甲第二号証並に原告本人の供述によると本件土地を含む宅地二百八十六坪七合五勺の中甲第四号証中(一)(二)を以て示した部分並に斜線部分を除き其の他の土地を加藤に売却することとしたのであり、初めは正確な坪数が不明で概算二百二十坪として坪当り金四百五十円と定めたこと、後に測量の結果、六筆に分筆し、各筆の坪数などを知り、乙第一号証を作成したが、この時にはまだ現地青写真(甲第十三号証)を見ず通路の部分が別に分筆されているかどうかが分らなかつたのであることが認められる。従つて売買の坪数は前記の合意を認定する妨げとなるものではない。

五、然るに実際行われた分筆が結局原告主張のような条件を満していないことは当事者間に争いがないところであり、成立に争いない乙第一号証並に原告本人訊問の結果を綜合すると、この分筆の後、原告と加藤との間に私道開設の約定がなされたことが認められる。伴証人並に野口被告の各供述中右認定に反する部分は信用しない。

六、原告は加藤には右私道開設義務の不履行があると主張するのでこれについて考える。成立に争いない甲第十五号証並に伴証人木川被告の各供述を綜合するに、被告等が本件土地を買受けた時には既に幅員八尺八寸の私道が開設せられていたこと、その位置はあたかも原告が甲第四号証の図面において斜線部を以て主張した部分に該当することが認められる。これを以てみれば加藤は私道開設の義務を履行したものといわなければならない。尤も原告本人の供述によると、原告の求めたところは、分筆又は地役権設定というような第三者に対抗しうる権利関係の創設にあつたこと、故に現在の私道はその意味で原告の意に協うものではないことが認められる。然しながら譲渡によつて袋地となつた土地の所有者が譲渡せられた土地上に開設せられた通路を通行するのは民法第二百十三条第二項に規定せられた法定の権利にもとずくことであり、これは原告としては何人に対しても主張しうるのである。故に原告が私道開設を望んだ趣旨は充分に達せられているのであつて、この点で加藤の義務不履行を云為するのは当らないといわねばならぬ。

七、次に設備買取の約についてであるが、本件地内に破損された水道栓の一、二本が存したことは当事者間に争いがないが、使用に堪える水道設備及び瓦斯設備があつたかどうかについては、成立に争いない甲第三号証の一、甲第十一号各証、安藤証人並に原告本人の各供述を綜合するも認めることができない。従つて、かかる設備を土地とは別個に買取る約定があつたとの安藤証人並に原告本人の各供述は信用できない。故にこの点に加藤の義務不履行を云為する余地は全くない。

八、更に租税金負担の約について考えるに、甲第二号証の覚書によると、その第三条に「昭和二十三年度分の地租其の他の公課は甲者の負担とすること、」とあるのが認められ、これに原告本人の供述を考え合せると、昭和二十三年度とあるのは「売買以降」の意であり、ただ本覚書作成当時は代金が昭和二十三年五月十五日までに完済せられると考えられていたため、右のような表現をとつたのであると認められる。よつて更に各税目について検討するに

(イ)  地租については右の覚書の趣旨から、昭和二十四年度分を加藤が負担すべきであるところ、地租の賦課期日は地方税法の規定により四月一日であるから、昭和二十四年六月一日においては既に納税債務が発生していることが認められるが、進んで納期に達していたか否かについては確証がない。覚書の趣旨からは納期以前においてもなお加藤が原告の請求に応じて支払うべき義務ありとは考えられない。

(ロ)  不動産所得税は覚書にいわゆる「其の他の公課」に含まれると考えられる。従つて原告が賦課せられる以上は昭和二十三年、二十四年度分については加藤が負担すべきものであるが納期の点について(殊に二十四年度につき)立証がないことは右と同じである。

(ハ)  かりに右地租及び不動産所得税が催告当時納期に達していたとしても、それが加藤において直接納付すべきものか又は原告において納付した後加藤がその金額を原告に償還すべきものかも明瞭でないのみならず、当時における納税額は原告の主張によつても合計金五千八百円にすぎず前記売買契約にもとずく加藤の義務としては被告等の主張するとおり軽微な附随的義務であつて、同人の他の義務がすでに履行せられ又は発生していない場合においては、かかる附随的義務の履行遅滞を理由としては売買契約そのものを解除することは許されないものと解すべきである。

(ニ)  譲渡所得税については「其の他の公課」に含まれると軽々に断定できないが、かりに然りとしても、甲第二号証が代金支払猶予の代償として成立した経緯と、甲第三号証の一の文面とを考え合せると、原告の意図は必ずしも原告主張のように全額を加藤に負担せしめるのでなく、登記がおくれた間に税率が上つたことによる税額の増加分を負担せしめるのにあつたと認められる。そして問題を増加額の支払と限定しても、加藤の支払を問題にしうるのは、(課税標準時が契約成立時か登記移転時かは暫く措き)いずれにせよ原告に対して賦課せられ、納期に達して後のことである。成立に争いない甲第七号証、同じく甲第九号証、同じく甲第十二号証の一、四、五並に原告本人の供述を綜合すると、本件土地(坪数を二百十坪として計算して)に関する不動産所得税及び譲渡所得税の合算額が、昭和二十三年五月末、二十四年六月一日、同年十月以降においてそれぞれ金一万二千二百五十円、金三万三千六百九十円、金六万三千五百八十二円となることが認められるが、これらは単に課税せらるべき予定額が増加したことを示すに止まる。予定額が増加したとの理由で、加藤がその相当額をあらかじめ原告に対して支払うべき義務はないと考えられる。

九、以上考察したところを綜合するに、昭和二十四年六月一日当時加藤には原告主張のような義務不履行はなかつたことが明らかである。故に設備買取義務、租税金負担義務の不履行ありとした原告の催告は義務のないところに履行を責めたものであつて、正当な理由がないといわねばならない。故にこの催告にもとずく解除は、この点に関する被告等の他の主張にふれるまでもなく効果がない。すなわち加藤は本件土地につき有効に所有権を取得している。

一〇、次に加藤から日光組こと訴外伴道義への所有権移転について考えるに先立ち、被告等が、加藤から本件土地所有権を取得して被告等に売渡した者を「株式会社日光組」と主張し、後これを「日光組こと伴道義」と変更したことに関する中間の争いについて判断する。本件売買の頃株式会社日光組なるものが存在しなかつたことは成立に争いない甲第八号証(商業登記簿謄本)並に伴証人の証言を考え合せてこれを認めることができる。故に被告等並にその訴訟代理人の当初の陳述が事実に反することは明らかである。そして右の甲第八号証によると株式会社日光組は昭和二十四年四月五日には設立されていることが認められ、この事実と畑中被告、野口被告の各供述等を綜合すると、右の当初の陳述は、いずれも、はじめ個人の商号であつた日光組が、社会的事象としての同一性を保ちつつやがて株式会社日光組となつたこと、代表者は同じ伴道義であつたこと、当時日光組の看板が立てられて日光組なる名前の方が伴個人よりも深く印象せられていたことなどから、被告等の契約の相手方であつた日光組も、売買当時既に株式会社だつたと誤解したに出でたものであると認めるに難くない。加うるに、原告が被告の変更前の陳述を援用することによつて右売買の当事者が株式会社日光組たることに争いないこととなるものとしても、この事実は原告の利益にして被告等の不利益となる事実ではない。何故ならばこれによつて所有権は被告等に移転するからである。現に原告訴訟代理人自ら被告等の陳述を援用しながら真実の売買当事者は伴道義であつて同人が株式会社の名をかりて加藤と通謀してなした仮装売買であると主張している。すなわち原告代理人は伴加藤間の売買でありながら株式会社日光組の名をもつてなされたという主張をせんがために被告等の従前の陳述を援用するに外ならぬのであつて、その趣旨は売買当事者が株式会社日光組なることの確定のためにではなく、売買契約が右会社名義をもつてなされたことの確定のために外ならぬ。右仮装行為の主張は被告等が売買当事者を伴道義と訂正した後初めて訴訟上意味を持つものであり、しかも右訂正後にあつては被告等は伴が会社名義を用いたということは主張しないのであるから、原告のいうところは被告等がかつてかかる主張をしたという訴訟上の事実を自己に有利な判断資料として援用するというにあるに過ぎない。故にこれらの陳述が原告の援用によつて自白となつたとしても、事実に反し、且つ錯誤にもとずいたことが認められるから、その撤回を許すべきものである。尚これに関連して乙号証の認否訂正についての争いにつき判断しておく。原告訴訟代理人が当初被告等と日光組との間に作成せられた契約書の成立を認めたのは「日光組」を「株式会社日光組」としてのことであり、後に被告側から前記の訂正がなされるに至つて、被告等と「日光組こと伴」との間に作成せられたものとしての成立を不知としたのである。すなわち被告代理人は右乙号証の作成者を最初「株式会社日光組」と主張し後に「日光組こと伴道義」と主張したものであり、原告代理人は前の主張を認め後の主張を不知と答えたものであつて、同一主張に対する答弁を変更したものではないから裁判上の自白の取消には該当せず、被告代理人の異議は右変更を妨げる効果を持たない。

一一、よつて、加藤から日光組こと伴への所有権移転について考察するに、伴証人の証言によつてこれを認めることができる。原告は、加藤から土地所有権を譲受けることは加藤の買主としての地位の承継を意味するところ、昭和二十三年三月当時は加藤の義務は代金債務初め、不履行のまま残存していたから、これは原告の承諾がなければ無効であると論ずるが、契約により加藤に所有権が移転した以上、代金未払であるとしても、加藤が更に土地所有権を有効に他に譲渡することは可能であり、殊に代金債務が五月三十一日に完済せられて以後は、加藤には原告主張のような義務不履行は存しないこと前記認定の通りであるから、加藤の義務不履行を前提とする右の原告の論は当らないといわねばならない。なお原告は右所有権移転は伴と加藤と相通じてなした虚偽の意思表示であると主張し、後記理由により成立を認め得る乙第二号証の二、第三号証の三、第五号証の二、安藤証人の証言に徴し成立を認め得る甲第五号証の三、安藤証人、伴証人の各証言を綜合すれば、伴と加藤との間の契約にあたつても株式会社日光組の名を用いたのではないかと思われる節がないでもないが、かりにそうだとしても、前記一〇項冐頭に説明したような事情を参酌すれば、この一事のみでは原告主張事実を認めるに不十分であり、他にこれを認めるに足る証拠はない。

一二、進んで伴から被告等への所有権移転についてであるが、加藤の地位の承継を理由として、これらの譲渡を無効とする原告の論の理由ないことは前段と全く同様である。然し原告は更に被告等に所有権の登記がないことを指摘して、第三者たる原告には対抗しえぬと主張するので、この点について判断する。これにつき被告等は原告は不動産登記法第五条にいわゆる「他人ノ為メ登記ヲ申請スル義務アル者」に該当するとし、従つて登記の欠缺を主張しえないと論ずるが、同条の規定は法定代理人、破産管財人、受任者等登記権利者に代つて申請の義務ある者を意味するものと解すべきで、土地を売却した原告は、登記義務者ではあるが、右にいわゆる「登記ヲ申請スル義務」があるのではないから、被告等の主張は当らない。然しながら土地が転転譲渡せられた場合の前主たる者は、後主間の譲渡を否認する正当な利益を有する第三者に属しないことは学説判例の疑わぬ結論であつて、これを否定する理由はない。原告は右の前主にあたるのであるから、日光組こと伴と被告等との間の売買を否認することはできない。そして伴証人の証言により成立を認める乙第二、三、五ないし七号証の各一、二並に伴証人、野口被告、畑中被告の各供述を綜合すれば、木川被告を除く他の被告等がいずれも日光組こと伴から本件各宅地所有権を、その上の建物所有権を合せて、それぞれ被告等主張の日時に被告等主張の代価で買受けたことが認められ、木川被告の供述とによつて成立を認める乙第四号各証並に伴証人、木川被告の各供述を綜合すると、訴外宮本とみ子は日光組こと伴から、木川被告は右宮本から、それぞれ被告等主張の日時に、被告等主張の代価で買受けたことが認められる。

一三、以上考察したところによれば、本件各土地の所有権はそれぞれ現在占有中の被告等に存する。故に原告の請求は失当として棄却すべきものである。

一四、最後に反訴について判断する。不動産が譲渡された場合、後主が前主に対して登記請求権を有することは明らかである。故に前段までに認定したところから、被告等は自己の登記請求権を保全するため、加藤の原告に対する登記請求権を代位行使することができる。原告の反対主張はすべて理由がないことは前段までの考察によつて明らかである。被告等の請求は正当であるから、認容すべきである。

一五、よつて訴訟費用の負担については本訴反訴とも敗訴の当事者たる原告の負担とすることとして主文の通り判決する。

(裁判官 近藤完爾 和田嘉子 倉田卓次)

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